(2009年11月15日)

同塵舎詩話M

起・承・転・結に就いてその八

二松学舎大学漢詩コンクールの高校生の入賞作品の講評
      

全漢詩連常務理事  窪寺貫道

転句がこの詩の見どころ

 今回は平成20年に行われた第三回学生漢詩コンクールの高校生作詩部門の最優秀賞と優秀賞の詩を紹介する。筆者は此の時も審査を担当したが、全部の応募数は前回より少なかったが、単に字を並べただけの詩は無くなった。指導者の意識も変化したと思われる。

 詩の題は自由ということで、色々な詩が寄せられた結果、これから紹介する三首は、春・秋・夏と三つの季節の詩が並んだが偶然とは言え各々の詩がどのように季節を詠じたかを比較出来よう。学年は当時の侭である。

最優秀賞
東京純心女子高等学校二年 田村 千恵

     春愁   春愁
櫻花爛漫午風柔 桜花爛漫 午風柔らかに
片片飄紅似蝶遊 片々たる飄紅 蝶の遊ぶに似たり
追到C江留不得 追いて到れば 清江 留るを得ず
陽春將去坐牽愁 陽春将に去らんとして 坐ろに愁を牽く

 此の詩は、桜の美しさと、散る花への愛惜が、逝く水のように去って行く春に重ね合せて詠じられた。

 起句で満開の桜が駘蕩たる春風の中で美しいことを詠じ、承句で花びらが、はらはらと散るさまが蝶が戯れているようだとした。「飄紅」という表現も上手いし、起句の春風が伏線になっているのも用意周到である。

 さて、転句は此の詩の見処である。「追到」で起・承句の舞台装置となった場所を離れ、飛ぶ花びらを追ったとして、円滑に転句に繋げた。其処では清らかな水を湛えた川が昼夜を舎かず流れている。

 続く結句は、麗かな春が、散る花に象徴される如く、また流れ去る水のように去って行き、留めることが出来ない。其れが、そこはかとない哀愁を牽き起こしたと結んだ。

 此のように、起・承・転・結の四句が各々の役割りをきちんと果たしているのも評価される。更に、転句の「清」が此の詩全体の雰囲気を表わすのに、一役買っている。

読者の想像にまかせる

優秀賞
暁星国際高等学校二年 早川 紘平

    秋夜偶成   秋夜偶成
蟲聲滿地雨初収 虫声地に満ち 雨 初めて収る
簾影搖時涼氣流 簾影揺らぐ時 涼気流る
軒下開襟敲句夜 軒下襟を開き 句を敲く夜
銀河迢遞一天秋 銀河迢遞たり 一天の秋

 作者は前年に引続いての優秀賞受賞である。

 此の詩は、雨が止んだ後の虫の声、風が涼しさを運んで来た。其の軒端で詩を作っている作者の様子と、其処から銀河を見て、秋を感じたということを淡々と詠じている。

 先ず起句は、雨が止んだ地上、此処では庭であろうが、そこかしこに虫が鳴いているという主に聴覚を生かした句作りで始めた。

 次の承句では、簾が揺れているのは具体的に語として出てはいないが、風が吹いていることを暗示し、同時に涼しさを齎らしたとして、肌での感覚が詠じられている。

 転句では作者が登場して、ワンセットになった起・承句と異った場面を詠じた。作者は軒端で、暑さから逃れる為に着物の襟をあけ、詩を作っているのである。

 最後の結句は、目を上に向けると晴れた天のはるか彼方に銀河が輝いているが、もう秋が来たのだという感慨で終っている。此処では詩が出来上ったのか、或いは上手く出来ないで天を望んだのかは言っていないが、其れは読者に任せようという作者の意図が窺える。

自然と同化した自分

優秀賞
二松學学舎大学附属高等学校二年 横山 諒

    夏日偶成  夏日偶成
蒸暑何堪半夜時 蒸暑何ぞ堪えん 半夜の時
北窗風絶就眠遲 北窓風絶え 眠りに就くこと遅し
几邊煎茗殘燈下 几辺茗を煎る 残灯の下
簾外閑望月影移 簾外 閑かに望む 月影の移るを

 この詩は、前半暑くてたまらない夏の夜を詠じているが、後半は西へ向って移動する月を望み、些か気持の安らぎを感じさせる。

 起句は、真夜中になっても蒸し暑さに堪えられない。承句では北側の部屋で臥床しているが、(おまけに)風すら絶えてしまって、眠ることが出来ない。

 起・承句で就眠不能の様子をセットにして、転句では気分転換の為に起き出して、暗い灯火が照らす机の辺りで、お茶を飲んでいる。すると、結句では気分が落ち着いて来て、「閑かに」月が西へ移って行くのを眺めているとした。

 更に注目したいのは、「月影移」である。月が移るのが分るのは、相当な時間をかけなければならないから、一瞥したのではない。何時間も「簾外」を眺めていたわけである。

 従って、起・承句で作者は暑さに閉口し、眠れない。その憂さを忘れて、月の穏やかな光に心の安らぎを覚えたのである。もう少し言えば、自然と同化した自分を、時間を忘れて其処に見出したわけである。

附言

 二松學舎大学主催の学生漢詩コンクールは今年も行われるが、この会報が会員のお手許に届く時は終わっている。

 恐らくは来年も実施されると思われるので、会員周辺の概当する学生諸君に詩を教えて頂き、一人でも多く参加することが出来るよう願ってやまない。