(2010年08月15日)

「水晶」で透き通った涼しさ

 次に薔薇が出て来ました。ばらも、豪奢な花でありまして、又貴族の館などに似合う。高駢「山亭夏日」の山亭は、貴族のお庭。高駢と云う人は出世をして、最後は渤海郡[ボッカイグン]王、偉いですネ。

 公爵なんかよりもっと偉い。王号を貰っています。「山亭」は王号のある高い地位に居る人の豪奢な山荘、別荘です。

緑樹陰濃夏日長 緑樹陰[かげ][こま]やかにして夏日長し
樓臺倒影入池塘 楼台影を倒[さかしま]にして池塘[ちとう]に入る
水晶簾動微風起 水晶の簾[れん]動いて 微風起こり
一架薔薇満院香 一架の薔薇 満院香[かんば]

 夏の暑い日、緑の樹の陰が濃やかである。濃やかは、濃い、くろぐろと樹が陰を落しているわけです。これだけで、日射しが強いのが判る。強いから黒っぽい陰が出る。

 夏の日は長いなあ、第二句を見ると、大きな山荘だから広い庭に楼台もあり、池もある。その池に高どのの姿が写っている。影を倒しまにして、と云うのは、丁度反対に池に写っているから。それで風が無いことが判る。あったら楼台の影は写りません。

 前半の二句を見ると濃い樹の陰と云い、又楼台が池に写っている姿と云い、風も無く、日がじりじり照りつけている暑い夏の日が良く描かれている。暑いのですけれど、楼台あり、緑樹が沢山あり、この別荘が矢張り奥深く広く豪勢なものであることが判ります。

 後半は部屋の中。

 水晶の飾りのついた御簾が動くのは、そよ風が来たから。これは風が吹いたからすだれが動いたのですけれど、認識の順序はすだれが動くことが先に判って、あ、風が来たんだな。と、この通りで良いわけです。

 水晶は飾りについているので、全部水晶ですだれが出来ているわけではないが、水晶と云うことで、すき通った涼しげな感じが出ている。そこで微風。それによってにおいが運ばれた、「一架の薔薇満院香し」。庭にばらの花が咲いていた。風によってその香りが運ばれて来た。

 満院の院は屋敷です。屋敷中にその良い香りが満ちている。「満架の薔薇一院香し」と云っても意味は同じです。庭いっぱいのばらが部屋いっぱいに香っている。ばらの花は上品な花ですから、貴族の館に相応しい。

 長・塘・香、七「陽」の韻です