(2005年07月01日)
講演会『大正天皇の漢詩』
全日本漢詩連盟会長 石川 忠久

菅茶山の名詩

 大正3年、天皇すでに即位後の36歳の作。あと3年でご病気になってしまわれた。秋の読書というのは当たり前のことであって、かえって難しい。秋の夜長のゆったりした気分で静かに雨が降っていて、涼気がする。そこで、一穂の燈光、これが優れている。大正3年に御所ではもう蝋燭などは使わないのだが、これは言葉の綾で言っている。そこで、元となった菅茶山の詩を見よう。

    冬夜読書
雪擁山堂樹影深 雪は山堂を擁して樹影深し
檐鈴不動夜沈沈 檐鈴動かず 夜沈沈
閑収乱帙思疑義 閑かに乱帙を収めて疑義を思う
一穂青燈万古心 一穂の青燈 万古の心

 茶山は、冬の夜の読書を詠った。その意図は、最後の句にある。一句目で背景を作り、二句目で風がないさま、これが四句目の伏線。三句目はこれは学者冥利の境地を言っている。そこで四句目。これが何とも言えない。揺るぎもしない火影を通して、ずーっと先人の心が顕[た]ち返ってくる。

 この詩は、読書というものはどう言うものかということを教えている詩だと思う。読書は気が散っては駄目で、ぎゅーっと緊張し、一点に集中しなくては。一と万との句中の対比も優れている。中国人も気がつかなかった、茶山先生発明の境地である。

 所が一旦発明が公表されると、真似する者が陸続と表われた。大正天皇もこれを上手に参考にされた。茶山の詩は全国の小中学校に貼ってもらいたい位である。