(2007年10月07日)

題の選定の大切さ

 次に、田原さんですね。これは、題材が良い。「木筆」。辛夷のことを木筆といいます。辛夷と言わないでわざわざ「木筆」といったところに作者の意図があるわけです。題をつけるときにも良く考えなければいけない。沢山ある作品の中から審査員が選ぶときに、おや、と思わせる題。題を選ぶのも才能のひとつなのです。これは、辛夷と書いたのでは、フンと思ってしまいます。木筆とあるからおやっと思って見てしまう。中を見てみると、木筆というのが良く生きている。

老懷時夢故山邊 老懐 時に夢む 故山の邊
深谷幽林白萼鮮 深谷 幽林 白萼[はくがく]鮮やかなり
欲寫嵐光玄妙筆 嵐光 写さんと欲す 玄妙の筆
筆尖風起晝蒼天 筆尖 風起きて 蒼天に画く

 これは、あくまでも、木筆という主題をどう生かすか。先ず、前半の句を見ると、歳をとって故郷を離れている。だから、夢を見るわけですね。故郷の山の辺りの夢を見るわけです。ですから、後半の景色は夢の中の景色なわけです。故郷の懐かしい、そういう思い出の景色です。われわれ、そういう昔のことを思い出すときには、なんと言うか、現実とは違うような雰囲気、幻想的な雰囲気が、頭に浮かびますね。で、終わりのほうは、幻想的な雰囲気を出すように持って行く。深谷・幽林と。

 ここで、柳澤さんの作品とも共通するのですが、深谷とか、幽林というのは、今度は暗い感じがするのですね。そこに、パッと白い花が咲いているからとても目立つわけです。白萼という主人公を出すわけです。その白萼というのは何かというと、木筆なのであります。嵐光写さんと欲す玄妙の筆。この自然の筆で絵を描いているようだという風に持っていった。アイデアですね。筆という字が第三句の一番終いと第四句の一番上とで、尻取りになっているでしょう。さっきの柳澤さんも花に勝る花後の村とつけていますが、田原さんの場合は、句と句のつながりにしていて、これは、とても効果があるのです。これは全部を尻取りにする連環体というのもありますが、この場合は筆という字をうまく尻取りにしてその筆先、辛夷の白い花がスーッと、青空にくっきりと、絵を描いているように見える。この作者は、絵もうまいのではないかな、詩心も絵心もあるとおもう。