(2009年01月01日)

裁判と漢詩

「痴漢冤罪の恐怖」を書いて
井上 薫

 三年前より横浜の教室で窪寺啓先生から作詩の指導を受けている。

 先生は、初心者は 四季の風景を詩題にするよう指導されているが、詩題が自由であるのを奇貨として、最近、裁判に関する詩題を扱うようになった。

 それは、私が、今は弁護士であるが、その前二十年間は裁判官であったので、自然と心が向くのである。裁判は、世相の縮図であるから、裁判を詩題に取り上げると、自分でも知らずに、現代の世相が反映する作品ができる。

 最近、23冊目の拙著として『痴漢冤罪の恐怖』(NHK出版)という本を公刊したが、そのはしがきで、自作の漢詩を取り入れた。「荊州鉄女寺」という七言絶句である。

 これは、私が平成20年6月に中国湖北省の荊州古城にある鉄女寺を訪れた際、冤罪に陥れられた父の無実を訴えるために鉄の溶炉に投身した姉妹の話を知ったので、冤罪の苦しみは今も昔も変わらないなあという感慨を込めたものである。

 杜甫48歳の五言古詩「石濠吏」によれば、当時、役人が農民を人夫として徴発する様子がよくわかる。今日の裁判関係の詩題にも、これと似た効用があるのではないか。

 それに、創作漢詩を一般向け書籍のはしがきに入れれば、漢詩創作の楽しみが多くの方に伝わるのではないかとも期待している。すべては、読者次第である。

  荊州鉄女寺
姉妹欲明爺不辜 姉妹明らかにせんと欲す爺<ちち>の不辜<ふこ>
投身灼熱鉄溶炉 投身す灼熱の鉄溶炉
法曹今尚重冤罪 法曹今尚冤罪を重ぬ
誰笑当時烈女愚 誰か笑わん当時烈女の愚