(2010年05月15日)

<文壇こぼれ話Q>

渡辺淳一さんのパーティ
常務理事  岡崎満義

 昨秋、東京会館で「渡辺淳一直木賞受賞40年」を祝うパーティが開かれた。この不況時代に、久しぶりにお目にかかった豪華絢爛のパーティだった。

 冒頭、壇上には読売新聞の渡辺恒雄会長をはじめ、各出版社の社長・会長が十数人並び、そのうしろには銀座のクラブの若いホステスさんが五、六十人、大きなかけ声とともに酒樽三つを同時に鏡開きするところから始まった。京都から舞妓さんも2人、駆けつけた。何人かの祝辞のあと、渡辺さんが挨拶した。

 「札幌で医者をしながら文学修行をしていたが、日本初の心臓移植が私の勤めていた大学で行われ、私が批判的な文章を発表したため、波風が立ってしまった。思い切って文学一つにしぼることにして、上京しようとしたとき、母が『どうしてまじめに医者を続けないのか。頼むから、もの書きというような怪しげなことをしないでくれ』と泣いて止めようとしたが、私はその手を振り払って上京した。母には今日のパーティを見せたかった」と、少し涙声でスピーチした。

 渡辺さんの本はこれまでに単行本、文庫本あわせて5600万部売れたそうだ。売れっ子作家の代表格だ。会場のうしろに横長の帯状に十数メートルの長さの著作年表が貼られ、たくさんの作品の前にサイン入りの文庫本がそれぞれ山と積み上げられ、おみやげに参加者一人一冊、好きな本を持ち帰ってくれ、とアナウンスがあった。

 渡辺さんの本は中国でも翻訳出版され、よく売れているようだ。中国では「情愛大師」と呼ばれているんだ、と渡辺さんは苦笑いした。いつか、シンガポールの日本人会に呼ばれて、渡辺さんと阿川佐和子さんの講演に随行したことがある。

 会場には女性客が多かったので、講師紹介のとき「渡辺さんの女性の好みは、肩の鎖骨のところに水が溜まるぐらいのスリムなひと、というのが編集者仲間の噂です」と最後につけ加えた。登壇した渡辺さんは「あれはもう昔のこと、今はもっと自由な感じでやっております」と、笑った。

 今、文藝春秋に連載中の小説「天上紅蓮[てんじょうぐれん]は、白河法皇と中宮・璋子の愛欲物語だが、その筆はまさに自由奔放だ。

 パーティといえば、私が出席したパーティの中で、最も豪華≠ネパーティは、塩野義製薬の「マスコミ感謝パーティ」だった。まだ、昭和50年代前半の頃だ。

 日比谷の日生会館の一室で、参加者は百名足らずの小じんまりしたパーティだったが、目玉≠ヘ松茸の食べ放題。網焼きされた松茸が次々に大皿に盛られた。あとは明石名産の鯛と蛸の刺身、酒は灘の生一本が伐りたての青い竹筒に入っていた。

 関西の旨いものが少品種多量に出てくるという、いたってシンプルな立食のテーブル風景だったが、松茸一本勝負無制限≠ニいう感じだ。私たちマスコミ人は遠慮ということを知らないので、みんなでワッと松茸の大皿の並ぶテーブルに集まり、次から次に出てくる松茸をたいらげた。


〈文壇こぼれ話〉シリーズ
全漢詩連常務理事  岡崎 満義