(2004年07月01日)

お薦めの一首③

いい漢詩を五十首どうぞ!

常務理事  中山 葦舟

 漢詩を作り始めて読んだ入門書に、「いい漢詩を五十首暗記しなさい」と書いてありました。

 ところが、有名な漢詩に、「平仄」が、「近体」の標準にあっていないものがあります。「陽関三畳」と称され、よく吟じられる王維の「元二の安西に使いするを送る」と題する詩もそうです。

 初心者にいい詩は、乃木希典の「金州城下作」です。戦中育ちの私は、小学校の頃から、詩吟入門で、意味はよくわからぬまま覚えていました。これが「平仄」「押韻」とも正確な、構成もすぐれた名作で、入門者が漢字の平仄を思い出すにもよい詩であることを知ったのは、仕事をやめて漢詩つくりを始めてからです。作ってみてわかる味というものでしょうか。

「金州城下作」は、「平起」(第一句二字目が平)ですので、「仄起」の詩として、晩唐の高の「山亭夏日」を挙げます。

     山亭夏日    高駢
 
緑樹陰濃夏日長 緑樹 陰[かげ][こまや] かにして
夏日長し。
樓台倒影入池塘 樓台 影を倒[さかしま] して
池塘に入る。
水晶簾動微風起 水晶の簾動きて 微風起こる。
一架薔薇満院香 一架の薔薇 満院かんばし。

* 有名な詩ですので原典は省略します。

 作者の波瀾多い生涯をおもうと、やや奇異の感を抱かせますが、山のあずまやの静かな夏の景物をうたった平明な詩です。

 以上の二首で、54字の「平仄」、平起、仄起の「平仄式」、起承転結のすぐれた構成を知ることができます。50首覚えたら、効果のほどがわかるというものです。

 何だか入門書のようなことを書きましたが、「山亭夏日」「金州城下作」とを比べてみますと、詩情の違いにより用語と技法でいろいろ違いがわかります。対語、畳韻語、名詞と形容語の配置、字感、倒置法などです。

 最後に私の好きな言葉の入った一首を追加しましょう。白居易の「雲居寺に遊び穆三十六地主に贈る」と題した絶句です。この詩は「平起」で、第一句「踏み落とし」です。

    山亭夏日    高駢
 
乱峯深處雲居路
共蹹花行独惜春
勝地本来無定主
大都山属愛山人

(大都おおむね)

 後半二句の川口久雄さんの現代語訳(講談社学術文庫和漢朗詠集)は、「景色の良い土地は、もともと定まった持ち主があるわけではありません。だいたい山というものは、それを愛する人の持ち物なのです」

 エンジョイが一番。仕事も、遊びも、酒も、漢詩も。漢詩の山も沢山あります。とても一首にしぼるなんてといいたいですね。