(2008年04月01日)

敗者復活戦の「一片の冰心」

王昌齢「芙蓉楼送辛漸

田邊 閑雄

 第二次ベビーブームの後半に生まれた者にとって、大学受験は本当に熾烈[しれつ]「戦争」だった。当時、自ら恃[たの]むところ頗[すこぶ]る厚かった私は、天狗であったが故に、深い挫折を味わった。

 かつて高校で机を並べていた同期は、三十を超えた今、キャリア官僚や一流企業の幹部となり、また、弁護士、会計士、医師となって活躍している。

 翻[ひるがえ]って吾が身を省[かえ]りみれば、敗者復活戦と称して大学院に進んだものの、まだまだ梯子の途中で宙ぶらりん、勝ち上がるのは容易ではない。

 王昌齢の「芙蓉楼にて辛漸を送る」詩に云う、

洛陽親友如相問 洛陽の親友 如[も]し相い問はば
一片冰心在玉壺 一片の氷心 玉壺に在りと

 ハハア、と思った。この心境は挫折を味わった者でなければ判らない。

 王昌齢とて、腸[はらわた]が煮えくりかえるほど悔しかったに違いない。それなのに、「一片の冰心」と言う。この二句が、ここ十数年、私の頭から離れない。