(2010年05月15日)

中国漢詩現地報告

中国における現代漢詩の理論的研究

「中華詩詞研討会」「中華詩詞六十年高峰論壇曁創作研討会」
全漢詩連駐中国代表
  金 中


全漢詩連駐中国代表
金中さん

 過ぎ去った2009年は中国建国六十周年に当る記念すべき年であった。長い歳月を経て、中国では伝統文化復興の気運が高まりつつある。私事ではあるが、私は昨年、留日漢詩集を上梓して、西安交通大学で学生に漢詩創作の指導を始めた。そして、10月にはおよそ二年ぶりに日本を訪れ、全漢詩連の方々と再会した。

 名古屋在住の鈴木淳次氏は「漢詩を創ろ
う」
サイトを運営し、世界中から四川?川
地震をテーマにした多くの漢詩作品を募集した。私はその中の日本の作品を『中華詩詞』の編集部に送り、6月号に10首が掲載された。中国の漢詩誌は日本からの投稿を大変歓迎している。

関心がますます高まる

 この一年の中国における漢詩活動について、まず5月の「中華詩詞研討会」の様子を紹介したい。

 中国唯一の全国的な漢詩組織「中華詩詞学会」は毎年一度、都市を変えて「中華詩詞研討会」を開催している。参加者は各地方の「詩詞学会」の責任者と、研究論文の入選者からなる。2009年は第23回を迎え、地元の西安で開催されることになった。私は現代漢詩における句読点の使用に関する論文を投稿して入選した。

 全国からの参加者は百人以上を数え、お年寄りから中年・青年まで、幅広い年齢層に亘る。遠くマレーシアや香港からの代表もいた。開催地と宿泊先は西安の南郊にある「陜西賓館」 である。「西安の国賓館」といわれるこの高級ホテルには大きな湖と森があり、まるで古代の別邸のような雰囲気である。

 5月26日午前中に開会式が行われ、中華詩詞学会会長代行・鄭伯農[ていはくのう]氏が挨拶し、漢詩創作は時代と共に進むべきであり、新しい時代の新しい生活を、新しい言葉やイメージによって詠もうと呼び掛けた。

 次に、陜西省副省長・鄭小明[ていしょうめい]氏が、古都の西安はかつての漢詩の中心地であり、今後も現代における漢詩の復興に寄与してやまない場所となるだろうと挨拶した。

 その後、中国社会科学院文学研究所所長・楊義[ようぎ]氏が「感悟思惟與詩詞創作」という題で、北京大学社会科学部部長・程郁綴[ていいくてい]氏は「当代古典詩歌創作之芻議」という題で、現代における漢詩の創作について、実例に即しながらそれぞれ発表した。

 今回の参加者にはこのような学術界の重鎮を始め、中国古典文学専攻の大学教員が多く、現代漢詩に対する関心がますます高まっていることが窺われよう。

 午後はグループに分かれての検討会に入り、各地からの参加者は訛の強い標準語で、各自の論旨を述べ、熱烈に議論した。

 27日の午前中は再び合同大会となり、幾つか研究発表が続いた。

 午後は西安近辺の戸県[こけん]」という町を訪れた。この地区は漢詩の普及活動が進んでおり、「詩詞之郷」という称号を中華詩詞学会から授けられ、その授与式が行われた。28日は西安郊外の「漢陽陵」と市内にある「大唐芙蓉園」を相次いで見学し、この盛会は閉幕となった。

中国では毎年10万首作られる

 更に、11月の「中華詩詞六十年高峰論壇曁創作研討会」の開催も注目に値する。書道家・黄君[こうくん]氏の運営する「北京華夏瀚林文化芸術研究院」が、「首都師範大学中国詩歌研究中心」 と共催した、現代漢詩に関する研究論文の募集イベントである。

 一等賞には5000元、二等賞には1000元、三等賞には500元と、賞金が付いている(1元は日本の約13円相当)。合わせて70本以上の論文が寄せられた。審査の結果、一等賞該当なし、二等賞3名、三等賞5名、優秀賞8名が選ばれた。

 長春在住の劉慶霖[りゅうけいりん]氏が現代詩の発想を導入して漢詩を作っており、私はその作品について評論を執筆して応募し、三等賞に選ばれた。

 中国ではこれまで、漢詩作品の募集イベントは多くあったが、民間の力による漢詩論文の募集は珍しいものである。11月5日から8日まで、その大会が北京で開催された。

 「中華詩詞研討会」「中華詩詞六十年高峰論壇曁創作研討会」はいずれも論文集を刊行しており、内容から見ると、現代漢詩の理念や名家の作品鑑賞、地方と大学における漢詩の普及活動、及び新韻の問題など、幅広い課題に亘る。

 また、現在一般の中国現代文学史には現代詩のみ含まれており、現代漢詩も当然そこに入れるべきだと訴える声が高かった。

 統計によると、中国では現在、毎年十万首ほどの漢詩が産出されているという。理論研究とは、こうした漢詩の創作に方法論の指針を与え、その良し悪しを評価するものである。

 創作実践と理論研究は、正に「車の両輪」のような関係にあり、いずれもその時代の漢詩水準の向上には欠かせないものである。

 このような「研討会」 に参加して、中国では漢詩の活動が以前より活発に展開されており、多くの作品が詠まれているだけではなく、それに対する研究の質も徐々に上がっていることが感じられる。また、日本の漢詩についても考えさせられることがある。

 日本と中国の漢詩は形が同じではあるが、歴史や文化風土の違いによって、内実はかなり相違がある。日中間の漢詩交流は、創作実践の面においては古典漢文に書かれた作品が比較的通じやすいが、理論研究となると、現代中国語で書かれた論文の内容は翻訳なしでは日本の方々には理解されにくい。

 日本漢詩の将来を担う若手の漢詩人は、今後恐らく現代中国語にも精通することが要求されよう。そうなれば、今までの日本の漢詩人のように日本語訓読だけでなく、中国語音の発想でも漢詩を吟味して創れる。

 また、中国で開催される諸々の漢詩大会や「研討会」に参加し、中国語で中国の漢詩人たちと対話して議論し、日本の漢詩観と作品を中国に伝えると同時に、中国現代漢詩の情報や理念などを日本に持ち帰ることも出来る。

 創作実践と理論研究の両方において日中漢詩の交流と共同発展を促進させることができれば……今後このような若手人材の現れることを、心から期待している。



「中華詩詞研討会」の発表風景。中央が金中さん