(2007年08月15日)

50年の勤めを終えて

『扶桑風韻』第4号 優秀作  小林 忠志

故園聞鳶聲  故園[こえん]鳶声[えんせい]を聞[き] 
睡足陽高覺鳥聲 [ねむ]り足[た]り陽[ひ][たか]くして  鳥声[ちょうせい]に覚[めざ]
辭官初識故園情 [かん]を辞[じ]して初[はじ]めて識[し]る 故園[こえん]の情[じょう]
飛鳶似解閑人意 飛鳶[ひえん][かい]するに似[に]たり
閑人[かんじん]の意[い]
蒼昊悠悠呼友鳴 蒼昊[そうこう]悠々[ゆうゆう]
[とも]を呼[よ]びて鳴[な]

入選作の端にでも入ればと思って投稿した私の詩が、予期もせず優秀作に選ばれ大変感激しています。本当に有難うございました。

この詩は私が教員や教育委員会での勤務など、約50年に亙る勤めを終えた時の実感を詠じたものです。今まで仕事仕事で日曜日も祝日もなく、朝早く家を出て晩は暗くなってから帰り、季節の移ろいにも気づかない生活を送って来ました。それが退職して朝は日が高くなってから小鳥の声で目覚め、空を見ると鳶が長閑に鳴きながら舞っている。そんな故郷の姿を知った時の思いを詩にしたのです。

作詩に当たって先ず頭に閃いたのは、白居易の「香炉峰下新たに山居をトし草堂初めて成り偶たま東壁に題す」という詩でした。白居易は退職ではなく、左遷されて盧山の麓に赴いたのですが、今の私のような心境を詠ったのだろうと思いました。それで先ず起句の「睡足陽高覚鳥声」を思いついたのです。

しかし肝心の転句と結句をどうするか、大空を舞いながら長閑に鳴いている鳶と自分の思いを、どのように表現するか悩みました。

そしてふと「二松詩文」第105号に載っていた服部承風先生の「早春聞鴬」を思い出し、もう一度読み直して「黄?似解春游興」を拝借して転句「飛鳶似解閑人意」を得、結句に大空を舞っている鳶を詠うことにしました。

それで最初の下三字を「呼友鳴」に決め、上の四字の大空は仄字の空ですから「昊」以外思いつかず、辞書を引いて「蒼昊」を得ました。また「悠悠」「融融」にしようかと迷いましたが一般的な「悠悠」にしました。

次に承句では起句を受けて退職したことを述べることにし、退職の「辞官」も熟語として読まず、「官を辞して」と返って読むことにしました。また下三字の「故園情」「故郷の趣」の意味にならず「故郷を思う情」の意味になりはしないかと心配しましたが、「情」を辞書で引くと「趣き・味わい」があるのを頼みに決定し、この詩をまとめました。